Take me out~私を籠から出すのは強引部長?~
「お心遣い、ありがとうございます。
ではお言葉に甘えて、少しだけ出てきますね」

「はい、ぜひ、そうしてください!
一時間でも二時間でも!」

さっきまでの憂鬱な顔が嘘のように、杉原課長はにこにこと笑っている。
その笑顔に心の中でため息をつきながら、携帯だけ掴んで部屋を出た。

私が社内を歩くと誰も彼も道を譲ってくれる。
その光景にまた、心の中でため息をつく。

会社を出て三軒隣のコーヒーチェーン店で、期間限定の桜のフラッペを頼む。
それを飲みながら、ぼーっと道を挟んで反対側の桜並木を見ていた。

……ほんと、嫌になっちゃう。

杉原課長が下っ端でずっと年下の私に敬語なのも、あんなに気を遣うのも、父のせいだ。
父は私がいま勤めている会社、業界大手の家電メーカー『SMOOTH(スムーズ)』の専務をしている。
専務が溺愛している娘、となれば、誰もが父の顔色をうかがって気を遣うのは仕方ないかもしれない。
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