Take me out~私を籠から出すのは強引部長?~
「……酒の臭いがする」

私の髪を片側に寄せ、スンと春熙がうなじのにおいを嗅いだ。

「え……」

さっきまでの楽しい気分が一気に恐怖へ反転する。
気づかないと思っていたのだ、私はいくらお酒を飲んでも、顔色が変わらないタイプだから。

「気のせいじゃ、ない?」

知らず知らず、指先が細かくかたかたと震える。
おそるおそる見上げると、春熙がじっと私を見つめていた。

――あの、なにも映さない硝子玉の瞳で。

「愛乃のことは全部知ってる。
僕を騙そうなんて無駄だよ。
……社内で飲み会、してたの?」

「……はい」

こんなささやかな自由すら、私には許されないんだろうか。
悲しくて悲しくて、泣きたくなんてないのに涙が出てくる。

「別に社内で飲み会を開くのは常識的な範囲で認められているし、咎めるつもりもない。
それに社員に愛乃をどうにかしようなんて怖いもの知らずの奴、そうそういるはずもないし」
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