朝マヅメの語らい
眉間にしわを寄せてみるものの、作り上げた表情と裏腹に耳の辺りが熱くなる。橋爪は神長の肩に拳をくらわせた。避けも止めもせずに、神長は薄い唇から歯を覗かせた。

「釣れるといいですね。ここからが本番です」
「釣れたらイカ墨ぶっかけてやるからな」

「それは危ないところでした」
 神長は腕時計に目をやった。どうやらもう時間らしい。

「……ありがとな」
 橋爪は片腕を神長の背中に回し、二度叩いた。神長は折り目正しく礼をした。

「こちらこそ有意義な朝の時間をありがとうございました。俺もどうにか頑張れそうです」
 あらためて神長の姿を見上げる。いつもとなんら変わりのない涼しげな表情だ。

(人の心は開いても自分の内側は見せねえのか、それとも単に俺が読み取れないだけなのか。結局のところ神長氏はこっちをお見通しでも、逆はさっぱりだな)

 新たな釣り人の姿が見えると、防波堤に佇むスーツ姿の神長が異様に感じる。これからここにも、ぽつぽつと人が現れ始めるのだろう。
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