【最愛婚シリーズ】俺に堕ちろ~俺様社長の極甘な溺愛包囲網
「そうそうその皆川駿也。うちにいたときもすごい仕事が出来たって。

たしか入社一年目で社長賞とか、その記録今でも破られてないだろう? 

いわばうちのレジェンド」

伝説とか……小学生みたいな話、やめてほしい。まぁ、事実は事実だけれども。
「二年目に急に辞めて、ニューヨーク。そこでも成功を収めるとか、ほんとすげーよな」

「まじかー! なんか雲の上の人みたいだ。そのときに皆川さんと別れたんですか?」

「まぁ、そんなところかな……」

苦笑いを浮かべて、目の前のグラスに手を伸ばす。

そこではじめてからっぽになっていることに気がついた。手持ち無沙汰になってしまい、もうこれ以上は間が持たない。

「まぁ、でも皆川さんとはきっと住んでいる世界が違う人だったってことですよね。その点俺なんか、どうですか?」

慰めようとしてくれているのだろうけれど(ぜひそう思いたい)、傷口をぐりぐりとえぐってくれる。

わたしはそれまで浮かべていた薄ら笑いさえも作ることができずに、真顔になっていた。

しかし話に夢中な彼らは、だれひとりとしてわたしの変化に気がつかない。

普段から仲良くしている人がいたなら、きっと誰か気がついてくれたはず。

「あ~、冗談だと思ってるでしょ? 俺、結構本気――」

「おい、前野」

それまで一緒にはやし立てていた、昔の噂話を提供した社員の顔が急に固まった。

その視線は、わたしの背後に向けられている。

いったい何?

彼だけではない、その場にいた全員がわたしの背後に視線を向けて訝しんでいた。

何かあるのかと思い振り返ろうとしたわたしの肩に、大きな手が乗せられた。

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