【最愛婚シリーズ】俺に堕ちろ~俺様社長の極甘な溺愛包囲網
「その元彼って、どういうやつ? 俺よりもいい男なのか、――ひより」

「…………」

振り向こうとしたけれど、その声を聞いて固まってしまった。

低めのはっきりとしたよく通る声。少しからかいがちの口調。

わたしの体が否応にもその声に反応してしまう。

昔、よく聞いた――その声に。

ど、どういうこと……なんで?

ぐるぐると疑問が頭の中を駆け巡る。しかし自分で考えても答えが出るものではない。

しばし固まってしまったままのわたしの顔を、背後の男がのぞき込む。

「おい、もう忘れたのか? 噂の元彼の顔を」

いきなり至近距離で見つめ合う形になった。

他の人なら驚いて後ろに顔をそらせて距離を取るのだろうけれど、今のわたしはそれさえもできなかった。

吸い込まれるような黒い瞳。すーっと通った鼻梁に少し口角の上がった形の良い口。

髪は少し短くなっていたけれど、それがまた男っぷりを上げている。

……悔しい。

わたしを振って傷つけた。それから何の連絡もないままだったのに。

いきなり現れた彼の存在がわたしを捉えて放さない。

がんじがらめになって動けなくなったわたしが、やっとのことで言葉にしたのは……。

「――……駿也」

この四年間ずっと心の中に居座り続けた、彼の名前だった。

成り行きを見守っていた周囲がざわめき始める。駿也が現れた途端みんなが彼に注目した。
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