【最愛婚シリーズ】俺に堕ちろ~俺様社長の極甘な溺愛包囲網
「元気だったか?」
わたしの方を見ず、変っていく階数表示に目を向けたまま彼は尋ねてきた。
いったいどう答えて欲しいの?
――あなたのことが忘れられず、しばらくは泣き暮らしました。
あれからずっと好きな人も出来ず、あなたを思い起こさせるものを見聞きすると、今でも胸が痛い。
そう答えれば満足なの?
「……元気よ。ものすごく」
「そうか」
考えた末の言葉をたった三文字で返されて、わたしは唇を噛んだ。
それきり向こうが何も言わないので、わたしもそのまま沈黙を選んだ。
気まずすぎる空気は、エレベーターが一階に到着するまで続いた。
扉が開いた瞬間、わたしは扉の前に立つ駿也の横をすり抜ける。
そのままホールに出て、正面玄関ではなくショッピングセンターの裏口の方へと向かった。
理由は、ただそこが近かったから。
けれどその選択をすぐに後悔することになる。
喫煙所の脇にある自動ドアを抜けると、遊歩道なっていて木々が生い茂っていた。
都会の中のオアシスになるようにベンチがもうけられている。
日中ならば、ここもたくさんの人が利用しているはずだ。
けれど遅い時間とあって人影はなく、ぼうっと光る街灯の下、わたしのカツカツという足音に、それを追ってくる駿也の足音が重なる。
「いつまで後をついてくるつもりなの?」
わたしは足を止めて、振り向いた。
「お前が俺の方を見るまで……ってことで、話をするぞ」
駿也が間合いを詰めてわたしの目の前に立った。