【最愛婚シリーズ】俺に堕ちろ~俺様社長の極甘な溺愛包囲網
自分から言い出したからと変に意地を張っていたわたしは、それからすぐに携帯の番号を変え、メールアドレスも変更した。
職場でもなるべく視界に入らないようにして、完全に自分の中の彼を消そうとした。
それから二ヶ月ほど経ったある日。
仕事を終えたわたしは、通用口を抜けて駅に向かおうとした。
そこで壁にもたれている人影に気がつく。
「ひより」
体がビクンとなり、足が止まる。声を聞いただけで、そこにいるのが誰だかわかった。
ゆっくりと相手が近付いてきて、目の前に来た。
久しぶりにまともに駿也の顔を見て、胸がギュッと引き絞られるような感覚がして、思わず手を当てる。
「――ひより」
声を掛けないで、名前を呼ばないで、わたしの前に現れないで。
そうじゃないとわたし……。
涙が溢れそうになって思わず掛けだした。
しかしその手を駿也が掴み無理矢理振り向かせた。
駿也はわたしが泣いているのを見て、目を見開く。
そして次の瞬間、苦しそうな表情を浮かべ、握っていたわたしの手を離した。
もう一度目があったけれど、これ以上ここにはいられないと思い、わたしは駅に向かった。流れてくる涙を拭いながら。
その翌日、わたしは駿也が退職をすることを知った。わたしたちの唯一の繋がりが切れた瞬間だった。