レフティ

そして週末になり、彼を東京駅まで見送ったあと、私は地元に帰って美沙の家を訪ねた。
いるかはわからなかったが、なんとなく。
いるような気がしていた。

「はーい」

「あ、里香です。美沙いますか?」

「えー、里香ちゃん!?いるいる。ちょっとあがっていきなさいよ~」

いや…と言おうとしたときには、すでに玄関のドアが開いていた。

「あら~久しぶりね~元気だった?」

「はい。おばさんもお元気そうでよかったです」

「そんなことないのよ~もう更年期!」

あはは、と豪快に笑ったおばさんは、喋り方こそうちの母親と同じ匂いを感じるが、見た目はもう。
さすが美沙のお母さん、という感じの可愛らしい人だ。

「美沙~里香ちゃんよ~」

階段の下から、2階の美沙に向かっておばさんが声を掛けると、ドタドタと足音が聞こえてきた。

「うわ…朝早いんだけど」

前髪を結んだ、“家モード”の美沙。
久しぶりに見た彼女のその姿に、思わず笑みがこぼれた。

「くんなら連絡してよねっ」

そう口を尖らせたものの、彼女も恥ずかしいのか、口元が緩んだ。
やっぱこの感じ。
美沙とのこの感じ、すごく落ち着く。


「あのー…この前はごめんね、言い過ぎたね」

やっぱりどう思われたとしても仲直りしたくて、私は素直に謝ることにした。

「いやいいよ。私もあんとき頭おかしかったから。ごめん」

男性に見せる笑顔とは違う、この笑い方。
きっと鎧塚さんもまだ知らない。

「それより!修羅場はどうなったの!」

そうして簡単に私たちは、いつもの私たちに戻った。

あの日、悠太から聞いていたから。
美沙が私のために泣いて怒ってくれたこと。

「ほんとにありがとね」

全部含めてだったけど、それ以上はなんだか気恥ずかしくて、言うことができなかった。

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