レフティ

次の五反田が、ミドリくんの家の最寄駅。
街コンスタッフはあくまで副業であり、本業はなにをしているのか私は知らないが、彼は駅近の随分といいマンションに住んでいる。

私たちはスーパーでお酒やらつまみやらを適当に買い、ミドリくんの部屋に揃って帰った。

「どうする?先シャワー入った方が楽かな?」

「あ、うん。その方が眠くなったら寝れるしね」

こういうのが私たちなのだ。
きっと美沙にはこんなの、想像つかないんだろうな。


乾かした自分の髪の毛から香る、ミドリくんのシャンプーの匂い。
用意してくれたサイズの合わない部屋着に袖を通すと、まるで彼女のような気分にならないこともなかった。

「ミドリくん、お先でした~」

彼と出会った頃は、きっとそういうことになるのだろうと身構えて、先シャワー入る?という言葉にドギマギしたことをよく覚えている。

が、今となっては代えのきかない大切な友人の1人になっていて、この微妙な関係がこれからもずっと続いてほしいなんて、馬鹿げたことを会う度に思っていた。

そんなこと、絶対に無理なのに。


「はい、お待たせ~」

「はやっ」

あっという間にシャワーを浴びた彼は、まだ髪の毛が乾ききっていなかった。
いつも彼はこうだ。ドライヤーが嫌いらしい。

「風邪ひくよ~?」

私の言葉に、馬鹿は風邪引かないから、と都合のいいときだけ自分を馬鹿呼ばわりして、彼はぷしゅっと缶ビールを開けた。

それからいつものようにテレビを見ながら、それこそ浴びるようにお酒を飲む私たち。
ウォッカに手をつけたら、もうおしまいの合図だ。

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