レフティ
「じゃあ長襦袢ね。まずこれには衿芯っていうのを入れますよ~」
先生はくるくると厚紙のような細長いものを、長襦袢と呼ばれる薄手の着物みたいなものの衿に通していった。
「襟がぴしっとしてるとさ、なんでもいいでしょ~?着物でもそうなんですよ~」
「はぁ、なるほど…」
私も見よう見まねでそれをやってみるが、なにせ不器用だから。
先生のようにするするとは入っていかないのだ。
「うん、桃田さんは基本的に不器用なのかな」
そう言って悪戦苦闘する私の横に回った先生からは、やっぱりいい香りがした。
「すいません…」
「…左利きってね、理解するのは遅いんだけど一度理解すると、すごく応用力が高いんだって」
決してそんなことはないのだが、先生はきっと予想以上に落ち込んでいた私をフォローしてくれたんだろう。
「なんか…気遣わせちゃってすいません」
「えー?違うよ、ほんとのこと」
先生に手伝ってもらいながら、ようやく逆側まで通った衿芯。
―…
「はい、じゃあ着ますよ~」
ぱっと立ち上がった先生に救われた。
ほんとのこと、と言って至近距離で目が合ったとき、私は先生から目を逸らせなかった。
あのままだったら、きっと私の顔は真っ赤に染まったことだろう。