レフティ

しかしミドリくんにも言われた、“隙がある”という言葉。

それって一体、私のどこを見て言っているのだろうか。

「…先生。隙があるってなんですか?どこがそう見えてるんですか?」

あろうことかそう口走った私は、言ってから後悔した。
なんとなく、この先生に弱みを見せることは得策でない気がしていたから。

案の定、先生はいやらしくにやっと笑って、私の言葉に答えた。

「なんだろね。なんか男慣れしてるのにしてないっていうか。男と2人きりになるのに妙に警戒心がないっていうか?」

「なっ…だって今はしょうがないじゃないですか」

「ドア開けといてください、って言う人もいるよ?」

ぐうの音も出ない。
確かにその手があった。

先生の言う通り、確かに私はこの状況に警戒心を抱くことはなかったし、むしろ胸をときめかせていたんだ。


「…このあと、飲み行く?」

しばらくの沈黙の後、先生はそう言った。

2人になることに警戒心がないと言っておきながら、その誘いの意図がわからない。

「ちょっと意味わかんないです」

さっき衿芯を入れた長襦袢の衿をぎゅっと掴んで、私は下を向いた。

警戒心がないってつまり、軽そうに見えるってことだろう。
だからあの合コンでも、ミドリくんにも、簡単に迫られてしまうんだ。

そして先生も。簡単な女だと思ってアドレス渡して、それにまんまと乗ってしまった私。

「崩れちゃうよ」

衿元を掴んでいた左手を先生に取られる。

見上げた先生はやっぱり綺麗な顔だけど、今の私にはそれが憎らしくも見えた。

思った通りに生きられる先生みたいな人には、私のような不器用な人間の気持ちなんてきっとこれっぽちもわからなくて、簡単に人の弱点を言い当てて得意げな顔をするんだ。

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