レフティ
「だからそれだって。手振り払わないと」
「…もういい加減にしてください、掴んできたのそっちじゃないですか」
糸の切れた私は、とうとうここ最近のうっぷんを爆発させた。
しかもまったく無関係の山辺先生に対して。
「簡単な女に見えるかもしれないけど、別にそうじゃないから!誰でも良かったらこんなにこじらせてな…」
― しまった。
声を押し殺して笑う先生。
「あ、いや…すいません…先生に言うことじゃなかった…」
慌ててフォローしたってもちろん遅いことはわかっている。
第2回を以て、私の着付け教室は終わりを告げたかに思えた。
が。
「桃田さんって典型的な左利きじゃない?いやーほんといいわ」
「は…?」
笑いすぎて溢れた涙を拭った先生は、続けてこう言った。
「俺の友達も誘うからさ。桃田さんも友達誘って、4人で飲み行こうよ。ほら、近藤さんとか」
― なんなのこの人…
私の予想を軽々と超えてくる先生に、開いた口が塞がらない。
ただそれと同時に、先生といれば自分が変われるような、いわば他力本願な思いも抱いていた。
「…美沙が予定空いてたら行きます」
どんな顔をしたらいいのかわからず、私は無駄に口を尖らせてそう答えた。