レフティ

「だからそれだって。手振り払わないと」

「…もういい加減にしてください、掴んできたのそっちじゃないですか」

糸の切れた私は、とうとうここ最近のうっぷんを爆発させた。

しかもまったく無関係の山辺先生に対して。

「簡単な女に見えるかもしれないけど、別にそうじゃないから!誰でも良かったらこんなにこじらせてな…」

― しまった。

声を押し殺して笑う先生。

「あ、いや…すいません…先生に言うことじゃなかった…」

慌ててフォローしたってもちろん遅いことはわかっている。
第2回を以て、私の着付け教室は終わりを告げたかに思えた。

が。

「桃田さんって典型的な左利きじゃない?いやーほんといいわ」

「は…?」

笑いすぎて溢れた涙を拭った先生は、続けてこう言った。

「俺の友達も誘うからさ。桃田さんも友達誘って、4人で飲み行こうよ。ほら、近藤さんとか」

― なんなのこの人…

私の予想を軽々と超えてくる先生に、開いた口が塞がらない。

ただそれと同時に、先生といれば自分が変われるような、いわば他力本願な思いも抱いていた。

「…美沙が予定空いてたら行きます」

どんな顔をしたらいいのかわからず、私は無駄に口を尖らせてそう答えた。


< 31 / 140 >

この作品をシェア

pagetop