レフティ

「あ、ねぇねぇ。この後まだいける?」

トイレから戻ってすぐにかけられた鎧塚さんの言葉に、私たちは目を輝かせた。

「「大丈夫です!」」

がっつかないように気を付けたつもりだったが、たぶん語尾に付いたびっくりマークは、彼らにも伝わってしまっていただろう。

「っしゃ、ダーツいこーぜ~」

私たちの言葉に笑った彼らはそのまま席を立ち始めたが、居酒屋のお会計は大体席のはず。

「え、席会計じゃないんですか?」

美沙も同じことを思っていたようだ。

「ん?あー大丈夫大丈夫」

鎧塚さんにバッグを手渡され、行くよーと声を掛けられると、私たちは手を取り合ってお互いの興奮を分け合った。

― スマートすぎる。

トイレに立っている間に、お会計を済ませてくれていたのだろう。
手慣れているとかそういう憶測よりもはるかに、ただただ、かっこいいとしか思えない私たちは彼らの容姿にやられているのだろうか。

「すいません、ごちそうさまです」

先生に頭を下げると、剣士ってほんとキザなんだと笑った。

「あ、てかそれ置いてくればよかったね。戻る?」

私の着付け道具を指差して先生は言う。

「いや、大丈夫ですよ。そんな重くないし」

「えー、でも盗まれちゃうかもよ?ダーツバーだし」

言葉の意味がよくわからなくて笑ってしまった。
ダーツバーだからといって、窃盗が相次ぐなんてことはないだろうに。

「ほら、いいから教室戻ろ」

少し口を尖らせて言う先生。
もうそんな顔を見せられたら、来週ちゃんと先生と生徒に戻れるか心配だ。

「剣士ー、桃田さんの着付け道具教室に置いてから行くわー」

少し先にいた鎧塚さんと美沙は、こちらを振り返って頷いた。
そして美沙は、小さくガッツポーズをする。

― そういうのじゃないって!

しかしこの距離では反論することもできず、私は気恥ずかしい思いのまま、先生に付いて教室へと戻っていた。


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