レフティ
「そういうのが、自分の価値を下げるんだよ。わかった?」
抱きしめられながらそんなことを言われたって、私の心にはちっとも響かないし、そう言う先生だってたぶん笑っている。
しばらくそのまま先生の鼓動以外何も聞こえない静寂が続いてから、私たちは何事もなかったかのように離れて、教室を後にした。
「ね、やばいんだけど!美沙ちゃん超下手!」
ダーツバーではすでに美沙vs鎧塚さんの戦いが繰り広げられており、丸テーブルには空のショットグラスが3つ置かれていた。
「剣士くんが!全然手加減してくれないの!絶対潰そうとしてる!」
頬を赤く染めた美沙だが、テキーラ3杯で潰れるほど彼女はアルコールに弱くない。
しかしこの数十分で、随分と2人は打ち解けたようだ。
「剣士ー男らしくないぞー」
ダーツの矢を借りてきてくれた先生だが、私はあれから彼を直視できずにいる。
なんといっても6年ぶりのキスだ。
あの後確かめるように、何度も唇に触れていた。
避けようと思えば避けられたはずなのに、私はこれまで守ってきた貞操を破った。
それはなぜなのか。
あまりにそれがない自分に嫌気が差していた?
イケメンだしまぁいっか的な?
お酒の勢い?
そのどれもがその通りで、でもそのどれもが核心ではないような気がして。
6年ぶりの恋愛でこんな高い山の登頂を目指すなんて、無謀にも程がある。
荒ぶる心を鎮めるのに、私は必死だった。