レフティ
「里香ごめんね~ありがと」
カウンターでもらったお水を飲み干した美沙が、申し訳なさそうに言う。
「なに、全然いいよ。なんか男に潰されるとか悔しいじゃん」
私もまた水を飲み干して、胃の中のアルコールを薄めるのに必死であった。
「でも楽しいね。潰されてもいいかなって思っちゃうもん」
「やめなさい」
もう少し来るのが遅かったら、どうなっていたことか。
美沙の無鉄砲さには、ハラハラさせられる。
しばらくして、ぐわっと言う鎧塚さんの声で前を見やると、圧倒的に先生が有利の状況になっていた。
「桃田さん、テキーラ頼んどいて」
無邪気な子供のような笑顔で振り返った先生。
「やっばー…」
漏らした言葉を、美沙は聞き逃さなかった。
「え!?なに、やっぱそうなった!?ねぇねぇ」
テキーラを頼む私の隣で、うるさく騒ぎ立てる。
「うーるーさーいー」
きゃいきゃいしていると、カウンターからはなぜか2つのショットグラスが出てきた。
おそらく私と美沙が一緒にいたから、2つだと勘違いされたのだろう。
「ま、いっか」
そう言って私たちが、先生たちのもとへ戻ると、すでに勝敗はついていた。
「くそー!やっぱ悠太つえーんだよなぁ」
頭を抱える鎧塚さんより先に、先生は2杯のグラスに気付いたようだ。
「大敗したから、今回は2杯ね」
「は!?」
先生のナイスアシストで、結局一度の負けにも関わらず2杯のテキーラを飲まされた鎧塚さん。
してやったりだ。