レフティ
「ねーまだ帰りたくなくない?4人でいるのめっちゃたのしーんだけど」
またもやご馳走になってしまったわけだが、それにお礼を言うと、鎧塚さんはあまりにまっすぐなことを口にした。
お世辞だとしたって、もちろん嬉しくないわけがない。
それは私たちも同じ気持ちだったから。
しかし、時計はすでに0時に近づいていた。
もう一軒行ったら、確実に終電がなくなってしまう時間だ。
「桃田さんたち終電あるよね?」
「あ、はいそうですね…」
― 何を残念がっているんだ。
確かに今までにないくらい、本当に楽しいけど。
あともうひと押しあれば…そう願っていたときだ。
「俺んち来たらいいよね?ね?」
鎧塚さんが先生の顔を覗いた。
「…剣士んちここから近いけど。でも2人とも明日とかもあるでしょ?」
「ないです」
美沙が即答した。
明日は夕方から一緒に合コンに行く予定だが、確かに私もそれよりこっちを取りたい。
「私も…ないです」
「んじゃ決まり!いこ~」
鎧塚さんは隣にいた美沙の手を引いて、歩き出した。
「…いいの?大丈夫?」
心配そうな言葉を掛けながら、なぜだか先生の口元は緩んでいる。
そんな顔が嬉しくて。
「こんな楽しいのほんと久しぶりだから。全然いいです」
ようやく私は少しだけ、素直になることができた。