レフティ
すでに熟睡している鎧塚さんと美沙からは少し離れた場所で、私たちは2人でしばらく話し込んでいた。
もちろん、私はまっすぐ前を見つめたまま。
「旅行さ、楽しみだね」
体育座りをしてクッションを抱えた先生は、私の顔を覗きこんでそう言う。
その姿は反則的に可愛いわけで、部屋が暗いことに感謝した。
「うん。でも絶叫系まだ乗れるかちょっと心配ですけど」
「もしだめだったら~ナガシマスカ延々と乗って、びしょびしょになってたらいいよ」
「あの招き猫のやつ?」
2人を起こさないように小さな声で笑った。
ナガシマスカとは、富士急ハイランドの中でもさほど怖くない、ラフティングのようなアトラクションのことである。
「お化け屋敷は?いける?」
「いやそれはほんと無理です。暗いとこだめだし。寝るときも1人じゃ暗くして寝れないんですよ」
これは小さな頃からそうだ。
自分の家であっても、誰かが近くにいるか、1人ならば部屋が明るくないと眠れないという、謎の特性を持っている。
今も先生が隣にいなかったら、美沙の手を掴んでいないと怖いと思う。
そんな私がお化け屋敷なんて、120%の確率で無理なわけだ。
「まじ?明るくする?」
「え、いや、今は大丈夫です。先生いるし」
立ち上がろうとした先生の手を掴んで目が合うと、また私はそれに見入ってしまった。
暗闇の中わずかにオレンジ色の光に照らされた先生の瞳は、とろんと潤んで、いつもより重そうな瞼が、先生も眠いのだということを教えてくれていた。
「…ちゃんと可愛いこと言えるじゃん」
見つめ合ったまま、先生の反対の手が私の頬に伸びる。
お酒のせいなのか、今日の先生の手は温かかった。