レフティ
「桃田さん眠そう」
私が掴んだ手は、いつの間にか指を絡められてぎゅっと繋がれている。
そこからこの心臓の鼓動が伝わってしまうんじゃないか、なんて不安になるほどに、私の心臓は壊れそうに速度をあげて動いていた。
「先生も眠そうですよ」
「確かに眠いね…」
そう言いながら、また近づいてくる先生の唇。
避けた方がよかったのかもしれない。
先生の言う通り、自分の価値を下げる行動だと私自身がそう思っていたから、これまで誰とどんなにいい雰囲気になろうと、断り続けてきたのだ。
なのに。
私は付き合ってもいないその人の唇に、簡単に引き寄せられていた。
さっきのような軽く触れるキスのあと、唇を離した先生は、頬に触れていた手を後頭部に回しそれにぐっと力を入れて、今度はさっきよりずっと深いキスをする。
時折こぼれてしまう声はやっぱり自分ではないようで、だけど、その声が漏れると余計に激しくなる先生のキスに、もう私はどっぷりと浸かってしまっていた。
同じように先生からも漏れる吐息が愛おしくて、繋がれていない方の手で先生の腰の辺りの服を強く握りしめる。
絡めとられた舌、何度も甘噛みされる唇、後頭部に回されていた手は、反対の頬を伝って私の顎を軽く持ち上げていた。
「…ちゃんと抵抗しないと」
唇を離すと、いやらしい糸が名残惜しげに私たちを繋いだ。
火照った口の中に残る先生の舌の感触は、私の理性を簡単にどこかへやってしまう。
「そんな顔してたら、誰もやめないよ」
― やめてほしくない。
瞬時に脳裏に浮かんだその言葉が、きっとすべてだった。
「やめなくて…いいです」
見つめ合った瞳に愛があるのは、きっと私だけ。
先生にとっては、いつものことなんだろう。
わかっていても、今はやめないで欲しかった。
繋いだ手を離さないで欲しかったんだ。