レフティ

まるで夢でも見ていたかのような、非現実的なイケメン先生との情事。
しかしそれはやはり現実だったようだ。

「おはよ」

なぜか視線を感じて目を覚ました私は、先生の腕に抱かれていた。
一体いつ誰が掛けてくれたのかもわからない1枚の毛布に、2人で包まった私たち。

「あ…おはようございます」

すぐ隣にある先生の顔は朝から綺麗で、それに対して、別の意味で綺麗に落ちきったであろう私の化粧顔はとても見せられるものではなかった。

「あのちょっと、顔洗ってきますね」

慌てて私が飛び起きようとしたときだ。
先生の足が、私の足に絡みついた。

「シャワー、一緒に入る?」

― はい!?

寝ぼけ眼なうえに二日酔いを抱えた頭は、クラクラと眩暈がした。
ここで私は、昨晩のおぼろげな記憶が夢でなかったことを確信したわけだ。

「いやちょっと先生…朝から勘弁してください…」

なんとかこの至近距離を打破したいのだが、完全に先生にロックされた体は、そう簡単に動かせなかった。

「なに、今更恥ずかしいの?」

ケタケタと笑い声をあげる先生が憎らしいのと同時に、とてつもなく愛おしい。
こんな気持ち、どうしたらいいんだっけ。

ブランクを重ねすぎた私にとって、先生との恋はもはや罰ゲームのようにすら思えた。
真っ赤に火照っているであろう私の顔を、にやにやと見下ろす意地悪な顔。
自分が見つめたら落ちない女はいない、なんて思っていそうに自信に溢れた瞳で私を見つめて、そっと唇を近づけて。

私はまたそれに吸い寄せられる。

きっとこれからもずっと、私と先生はこんな感じなんだろうと思う。
自分が先生と幸せになる未来なんて、これっぽっちも想像がつかない。
弄ばれて、付かず離れずの距離で堂々巡りの恋になるんだろうことは、予感していた。

ただ、もう芽生えてしまったから。
一途じゃなさそうだし、誠実でもなさそうだけれど、6年間こじらせつづけた私の心は、もう彼に向いてしまった。

叶いそうもない恋を悲観する気持ちよりも、ようやく前を向けた自分の恋心が嬉しくて。

一生片思いでもいい、なんて馬鹿みたいなことを思いながら、また私は先生の唇に溺れていく。


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