レフティ
「え!?付き合うことになったの!?」
「いや違うって。ただキスしただけ…」
「里香が!?あの里香が!?」
美沙は鎧塚さんの家からの帰り道、二日酔いの頭によく響く甲高い声で何度も同じことを聞き返した。
「好き、だと、思う…。どうしようもないけど」
ただ、やっと好きな人ができたという事実だけは、美沙に一番に伝えたかったんだ。
6年前のあの日、私に代わってアイツを殴ってくれた美沙に一番に。
「………うん、そっか…」
さっきまでの甲高い声から一変、小さく呟いた彼女の様子を覗うと、思わず吹きだした。
「泣くほど!?ねぇちょっと」
「だって里香が…やっと…やっと里香がぁ」
なんで私のことで美沙が泣くんだ。
もう本当に、彼女には敵わない。
「便乗するわけじゃないけどね」
涙を拭いながら、突然美沙の足が止まった。
「私も、剣士くんのこと頑張りたい。なんか今までと全然違うの」
頬を赤らめて笑い合う私たちは、揃って高い高い山の登頂を目指すことに決めた。
ああでもないこうでもないと、ただひたすらに出会いばかりを求め続けた私たちが、ようやく本気になれそうな恋を見つけた今日は、雲一つない秋空に金木犀の香りが漂う、そんな10月のある日であった。