レフティ
「つまりね、おはしょりがぼわっとしてると、スマートじゃないでしょ?菊池さんみたいにぴしっと着たいでしょ?」
先生は理解の遅い私に、なるべくわかりやすいように話してくれていた。
「はい」
「だから、ここの余計な布を全部上にあげて、帯で隠したいわけだよ」
先生の手が身八ツ口から着物の中に入って、余分な布を掴んだ。
「はい、これ持って、三角におりあげる~」
「え、どれ…これ?」
そこまでしてもらっても、私には半分くらいしかわかっていないようで、先生のこれがどれだかわからなかった。
ほとほと自分に嫌気が差す。
「ちがう、それ俺の着物だわ」
「嘘っ」
ごそごそと着物の中で動く手が、少しくすぐったい。
「セクハラで訴えんなよ」
先生が急に耳元でそう笑った。
セクハラでって、つい先日これ以上のことをしておいて、よく言う。
「あ、わかった!こうだ!」
菊池さんが自分で処理しているのを見て、ようやく先生の言っていることを理解した私は、やっとどうにか言われた通りのことをこなすことができた。
「ふー…」
先生と同じタイミングでついた溜息が、申し訳ないようで少しだけ嬉しい、なんて。
「はい、じゃー今日はここまで。着物のたたみ方教えますので、脱いでくださいね~」
案の定たたみ方でもつまずく私に、とうとう先生のみならず菊池さんまでもが手を差し伸べてくれた。
「菊池さんすいませんね…私のせいで進み遅いですよね…」
道具をせっせとしまいながら、私はあまりの申し訳なさに彼女に謝罪したが、彼女は首を横に振って大きく笑った。
「全然。私は娘の浴衣着せることがあるから、ちょっとわかるだけなんですよ。気にしないでください」
彼女は、着物も本当は娘が着たがっていて、と続けた。
「娘さん、おいくつなんですか?」
「中3と小5なんです。もー反抗期で大変で」
「え、そんな大きいんですか!?」
私たちがまたも女子会トークに華を咲かせていると、着物を着付け直した先生が、パンパンと手を叩いた。