レフティ
あれからちょうど1週間。
私たちは朝早くに東京を出発し、山梨県の富士急ハイランドに向かって車を走らせていた。
車内では、今日のために鎧塚さんがセレクトしてくれたらしいプレイリストが再生されている。
彼と、助手席に座る山辺さんは、それに合わせて上機嫌に体を揺らしていた。
かくいう私と美沙は、後部座席にちょこんと座りながら、そんな彼らの姿を見て、揃って口元を緩めた。
それにしたって、このノリのいいメロディーラインとは裏腹な歌詞は、1曲終わるごとにまるで短編映画を見終えたかのような錯覚を起こさせる。
「やっぱビーサイいいわ〜切ね〜」
噛みしめるように鎧塚さんが言うと、山辺さんも隣でうんうん、と深く頷く。
私と美沙は同時に顔を見合わせた。
「…切ないっていうか、もはやえぐいよね」
「わかる。突き刺さるとかじゃなくて、えぐり取られてる感ある」
男性と女性の感性の違いなのか、はたまた、辛い恋を山ほど経験した私たちと、そんな世界が空想のように思えるほど、順調な恋しかしていない彼らの違いなのか。
いずれにしても、Besaidというバンドをビーサイと略すことくらいしか知らない私は、片思いの彼が好きなバンドと知って、彼らをスマートフォンで検索しているのだから、案外可愛らしいところがあったものだ。
「もうすぐ着くよ」
振り返ってそう微笑みかけた山辺さんは、そんな私を知る由もない。
その言葉通り、流れゆく景色にジェットコースターが見えて、開園時間の9時ちょうど頃、車は高速のインターチェンジを降りた。