麻布十番の妖遊戯
「それでねえ、頭のいいあたしたちは気づいたわけ。生きてる人間は欲で動く。欲にまみれて生きすぎると、人は人を殺すってね。殺された人は幽霊になるのよ。それで、殺したやつに取り付くか、今生を忘れたい一心で逃げるように上に逝くの」

 昭子が侍の言葉を引き取り、指で上を指し『あの世』を示した。侍同様に目をギラつかせて猫夜と犬飼をじいっと見る。
 猫夜と犬飼は顔を見合わせ、唾を飲んだ、猫夜の耳が後ろに倒れている。犬飼の尻尾は腹にぺったりとつけて隠れていた。

「そこでだ、俺たちはこの幽霊を相手にこの世を楽しもうと考えたわけさ。まず俺がその辺をふらふらして、おまえらみたいな恨み辛みを纏ってどうにもならない幽霊を捕まえる。そして、お前らの恨みを晴らさせてやる代わりにお前えらに起こったことを話してもらう。ようは死に様だ。それが酒の肴にもってこいなんだよ。これは前にも言ったろ? 話ってもんは最高の肴でな。その約束ができたら取引完了だ。殺した奴が死ぬ時期にお前らが現れるように細工し、復讐の機会を与えてやる。でもだ、俺一人じゃそれはできねえ。しかしこの二人がいたら可能なんだよ。そういうことだ。わかったか?」

 侍がメロンソーダのグラスをまるでワイングラスのように手の内で回している。
 犬飼は何かしゃべらないと己の身になにか怖いことが起こりそうな気がして、口を開こうとしたところで猫夜にその開いた口をパンチされる。

「はあ、なるほど。お三人方があたしらの無念を晴らすお手伝いをしてくださるということですね」

 猫夜が喉の奥でうにゃんと唸った。
< 107 / 190 >

この作品をシェア

pagetop