麻布十番の妖遊戯
「長年この地に住み着いているとうことは、みなさま方はよもや幽霊ではなく、もしやあの影の内に潜むという」

「妖怪って言いたいのかい?」

 猫夜の疑問を素早く引き取って太郎が先に答える。相手がどう出るのかを楽しんでいるのが見え見えだった。

「違うんですか? あたしの母猫が昔あたしに教えてくれたことがあります。この世には猫又という猫の妖怪がいる。猫又は猫の大妖だ。我々を守ってくれる存在だ。妖怪というのは神出鬼没なものだ。いつどこで会うかわからない。妖怪は昔からこの地にいる地の神だ。その時々に姿を変え、人の世に混ざり、人の生を楽しんでいる。出会ったら幸運。何を言われても何をやられても神様には絶対に逆らうな。そうすればおまえをきっと助けてくれるよ。と。だから、よもやあなた方はきっと」

「さあな、どうだろうなあ。しかし、なかなか面白いことを言う」

 含むように笑った三人を見て、猫夜は理解したとばかりに大きく頷くが、犬飼は眉間あたりに皺を寄せたまま頭を傾けていた。

 そんな犬飼を猫夜はこバカにしたように黄色い目を糸のように細めて睨んでいた。

 昭子と侍が後ろで、あたしらは神様だってよ。この前は守り神とか言われたねえ、そうだ、これからは神と名乗ろう。
 あたしらはたぶん神だね。そうだと思ってましたよ。やっぱりねえ。神か。これはおもしろい。などと、嬉しそうな声で有る事無い事言い合っていた。

「よし、じゃあ、そんなところで、神の話はおしまいにして、そろそろ行くぜ」

 神に興味のない太郎は、己のこれからの楽しみを想像し、やはりギラつく視線を犬飼と猫夜に向けたのであった。
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