失翼の天使―wing lost the angel―
片付けが行われる中、薬剤部に提出する書類や、保健所への報告書の準備。

まだ患者さんは続くだろうし、朝になれば小さな個人病院にも患者さんが来るだろうし、忘れた頃にも発症する人は出るだろう。

しかし、混乱状態は終わった筈。



「帰るから、これ捺しとけ」



「うん。ありがとう。鷺沼先生に預けとくよ」



書類に必要な、責任者の印鑑。

兄から部長名義の判を預かり、お礼を言って書類に向き直る。

未だに保健所への報告書は台紙はあるものの、手書きで手が疲れる。

今の時代、ボールペンは医局やナースステーションに1本ずつあれば良い位のレベルなのに、変なところで時代錯誤。

このマイボールペン、いつぶりに握ったのか、自分でもわからない。



「お疲れ」



「お疲れ様です。あ、これ明日お兄ちゃんに渡して貰えますか?もう先に捺したので」



「了解。部長、ついに連絡なかったか」



「どうして来られないんですか?」



「引きこもり」



「は?;;」



「あの人、見た目や口調がキツいわりに、中身はかなり臆病な人なんだ。だから出社ならぬ出病拒否してる。けど、優秀は優秀だから、部長にしといて、長崎先生をリーダーにして救命を回して貰ってる」



…そんなドクター、居ちゃうんだ;;





< 34 / 219 >

この作品をシェア

pagetop