ビターキャラメル ビター
「髪、やっとここまで綺麗に伸びたな。もう勝手するなよ?」


「……その節は申し訳ありませんでした」


肩より下に伸びた私の髪は、一年間かけて再生を施されてきた。
宗吾さんによって。


一年前、ずぶ濡れだった私は、宗吾さんたちが優しくしてくれるほど惨めで、美容室の鏡に映る、朝綺麗に巻いた長い髪が真っ直ぐ垂れる自分が滑稽で――ふと目に入った鋏を手に取り、私は右の肩口で自分の髪を切り落とした。


馬鹿野郎と怒鳴られた気がする。手は上げられなかったけど、その勢いは確かに宗吾さんにはあった。
私が手にした鋏は、宗吾さんのもので。美容師さんが大切にしている道具で。それはお客さまを綺麗にするための道具で。……それを私は、道に反するかたちで勝手に使ってしまったのだ。
その日、私はそのあと逃げるようにお礼を言って帰ってしまった。


翌日、菓子折りと着替えを返しにお店に伺ったところ、不恰好にセルフカットして帽子で隠された私の髪を、宗吾さんは華麗に整え直してくれた。
大きな鏡に映るショートヘアーの私を宗吾さんは憂い、元に戻るまで面倒みると、責任を負わせてしまった。
宗吾さんのせいではないのに。私の髪、そんな大切にされるほどのものじゃ……。


どんな髪型にしていきたい? 


訊かれた一年前の私は答えられなかった。


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