パクチーの王様

 手袋はしていたが、寒いからかな、と思い、子どものときのように、ぎゅっと握り返し、
『寒いねー』
と笑いかけると、圭太は、

『……そうだな』
と言って、ちょっと恥ずかしそうに俯いた。

「あー、そんなこともありましたね」
と思い出しながら、芽以は呟く。

「俺はあれを見て、お前と圭太は付き合ってるんだろうなと思ったんだ」

「いや、あの、手をつないだのも、それ、一回きりですし――。

 でも、そうですね。
 考えてみれば、圭太と一番距離が近づいたのは、あのときだったかもしれません」

 お前とは結婚できない、と言った一週間前の圭太の顔を思い浮かべながら、芽以は、そう言った。
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