パクチーの王様




 客が引けたあと、彼、水島彬光《みずしま あきみつ》は言ってきた。

「実は、僕の好きなサークルの先輩がパクチー好きで。
 この間、僕もパクチー好きなんですって言っちゃったんですよねー」

 でも、頑張って食べてみたんですけど、駄目でした、と言う。

「大学に入って、なんだか気が抜けたみたいになって、やることもなくて。
 先輩と出会って、やっと世界が開けた気がしたのに」

 嘘ついちゃいました……としょんぼり語る彬光に、逸人は全然違うことで怒っていた。

「やることないわけないだろ。
 大学入ったからには、勉強しろ」

 いや、そりゃそうなんですけどねー、と芽以は苦笑いする。

 苦手な嫁もパクチーも克服しようとする努力好きの逸人には理解不能な悩みだったようだ。
< 315 / 555 >

この作品をシェア

pagetop