パクチーの王様
「勉強が向いてないのなら、なにか探して打ち込め。
 今なら、時間が山とあるだろ。

 社会人になったら、自由な時間なんて、ほとんどないぞ。
 なにかを身につけるなら、今だろ」

 いや、貴方、英語教室の勧誘かなにかですか、と問いたくなる口調と説得力だった。

 思わず、入会してしまいそうだ……。

「そうなんですよねー。
 先に就職した友人たちが、自由なのは今だけだとか言うから、ちょっと考えてはいたんですが」

 そこで、厨房をチラと見た彬光が言ってきた。

「そうだ。
 店長、此処で雇ってくださいよ」

 ……はい?

「さっき、店長が厨房で働いてる姿、とても美しかったです。
 ルックスだけの話じゃなくて、動きに無駄がなくて美しいというか。

 まるで武道でも見ているかのようでした。

 僕、貴方のようになりたいですっ。
 雇ってくださいっ。

 どうしたらいいですかっ。
 やはり、三顧《さんこ》の礼ですかっ。

 まず、一回帰ってきますっ」
と彬光は訳のわからないことを言い、立ち上がる。
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