恋の仕方を教えてくれますか?
ちょっと待って、榊さんの家…!?

「あの、でも…」
流石に上司の家に泊まるのはマズイ気がする…。

「心配しなくていいですよ」

そういうと、榊さんはサイドブレーキを踏んで解除し、車を発進させた。

ダメだよ、好意で泊めてくれるって言ってるのにその本人を車中泊させちゃ…!でも榊さんはきっと私が車で寝るって言っても絶対に納得してくれない。だったら…

「あのっ、お言葉に甘えてゲストルームをお借りしたいです!それで…その、榊専務もちゃんとお部屋で休んで欲しいです…!」
だからお願い、車で寝るなんて言わないで…!

「ふふ、わかりましたよ」

表情は見えなかったけど、榊さんの声はさっきよりずっと穏やかになっていた。

でも…本当に泊まってしまっていいんだろうか。もし彼女とかいたら誤解されるんじゃないかな…。聞いて確かめたいけど、榊さんとだけは恋愛の話は避けたい。今はこうやって二人とも何事もなかったようにしてるけど、三年前に告白されたのは確かに事実なんだから。…真相はわからないけど。

私はぎゅっと榊さんのハンカチを握りしめた。

会話をするわけでもなく、榊さんは車を走らせた。バックミラーを見ると、榊さんの目元が見えた。対向車とすれ違う度にその輪郭ははっきりと写し出された。

しばらくすると、車は月極駐車場へと入って行き、榊さんはそこに車を停めた。

「ここから三分くらい歩きますけど大丈夫ですか?」

シートベルトを外しながら私に問う。慌てて私もシートベルトを外して返事をした。車を降りると外はやっぱり寒い。こんな寒さの中で公園で過ごしていたら完璧に風邪を引いていた。

榊さんは何も言わずに歩き出す。私はその後ろをついて行く。榊さんの歩幅が狭いのは、多分私に合わせてくれているからだった。風に乗って、ほんのりと榊さんの香りが私の鼻をついた。車の中の匂いとはまた違う、柔軟剤のいい香り。
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