恋の仕方を教えてくれますか?
「ちょっと困るよ!!」
騒々しさで目を醒ますと、デスク越しには警備員さんが懐中電灯で私の顔を照らしていた。
「っ、まぶし…」
「閉館10分前にはオフィスから出る決まりでしょう?守って貰わないとこっちが叱られるんだからさぁ」
広いオフィスに警備員さんの声が反響してうるさい。
って…え?閉館?
私はオフィスの時計を見た。
22時50分
「うそっ…」
課長に明日までに必ず作れと言われていた書類なのに寝ちゃった…!?
頭の中で瞬時に様々な予測を立てる。
課長に怒鳴り散らされる未来
家に持ち帰って徹夜の未来
いや…ダメだ…データの社外持ち出しは絶対厳禁…。
「早く鍵閉めるよー!?」
警備員さんはもう入り口にいて、私が出るのを待っている。
「っ、今行きます!」
もういい、明日朝一で課長に謝ろう。そして怒鳴られよう。全部私の責任だ…。
次の日、洗いざらいあったことを話そうと、課長のデスクの前にやってきた。
私に気づいた課長の眼光は鋭い。
「あの、課長…」
「いやー!及川さん、ありがとう助かったよ」
私が言い切らないうちに課長が私に礼を述べた。
「えっ、何がですか」
「何がじゃないでしょ!昨日の書類だよ!あそこまで完璧に仕上げてくれるなんてびっくりだよ」
昨日の書類を仕上げた?
何のこと?
昨日の書類は半分までしか終わってない…。
「…私、昨日は寝てしまって!書類は半分までしか終わってなくて…!」
私がそう言うと、課長は不審そうな顔をして、すぐに笑った。
「及川さん何言ってんの!?寝ぼけちゃって…!!ほら、及川さんの作った書類これでしょ?」
課長は引き出しからホチキス留めされた書類を取り出し私に見せた。
「ちょっと失礼します」
私はそれを課長の手から奪い、中身を確認した。
確かにそれは私の作った書類だった。
半分までは。