恋の仕方を教えてくれますか?
それから約40分、榊さんのマニフェストが語られた。

要するに関東支社には無駄が多く、何をするにも非効率なことがあるらしい。

そんな話がされる中、外回りの社員たちがソワソワと落ち着きを失くし始めていた。
09時40分…営業課の方たちは顧客とのアポイントを10時に入れている人たちが多い。しかし異例の専務の朝礼で、身動きがとれないのだ。

しかしそれも榊さんは見逃さなかった。

「私の話をうわの空で聞くことと、顧客との約束、どっちが大事かわかりますよね?なら早く行ってください。」

そう冷たく言い放つと、営業課の方たちはコートを手に取り、そぞろにオフィスを後にした。

「今の話、正直営業課の皆さんには関係ないんです。関東支社で無駄があるのは失礼ですが、社内に残るあなた方の業務の事なんですよね。」

その言葉で再び社内はざわつきだす。さすがの課長も口を挟む。

「榊専務…それはおいおいでっていう話じゃないですか…」

課長は榊さんの耳元でこそこそと話しているつもりだろうけど私にはしっかり聞こえていた。

ちょっと待って…。私たちの仕事が無駄ってどういうこと?
ふと麻里恵を見ると、なんとも面白くなさそうな顔をしていた。

もちろん麻里恵だけじゃない。

ほとんどの社員が麻里恵と同じような表情を浮かべているか、私みたいにおろおろと目を泳がせている。

「どうせ後から告げるんです。なら早い方がいいでしょう?」

「し、しかし社員のメンツってもんが…」

課長と榊さんとの会話のやり取りはダイレクトに聞こえてくる。

もしかして、榊さんってリストラの権限も一任されている?
正直私や麻里恵がこなす仕事は誰でも出来る。

もしも人件費削減なんてことになったら真っ先にしわ寄せが来るのは事務職である私たちだ…。

麻里恵も同じことを考えているのか、表情がどんどん険しくなっていく。

「ちょっと待ってください!いくらなんでも急すぎませんか?」

沈黙を破ったのは総務の更科さんだった。

更科さんは誰もが認める“出来る男”だ。

関東支社の多種多様に渡る業務を取り纏め、総括している。榊さんがまだこの支社にいたころは、“関東支社のツートップ”なんて言われて女子社員にもてはやされていた。
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