恋の仕方を教えてくれますか?
更科総務も私の上司だけれど、榊さんと比べたらとても話やすい。相談は親身になって聞いてくれるし、失敗もまずは受け入れてくれる。それからそれとなく叱ってくれる。

榊さんが騎士だとしたら、更科総務は私にとっての勇者…そんなイメージ。

今だって誰もが思っている事を代弁してくれようとしている。

「そうですね。確かに急だったかもしれません。だけど私は何もここにいる社員を路頭に迷わそうなんて思っていませんよ?」

…?リストラするんじゃないの?

「すみません、私の勘違いでなければここにいる全員が私と同じ事を考えていると思ったのですが、違うという解釈でよろしいですか?」

更科総務は静かに、だけど強くそう言った。
麻里恵や他の女性社員は、目をきらきらとさせながら更科総務を見ていた。

わかる…。今の更科総務はかっこいいよね…!

私自身、榊さんと更科総務のやり取りに吸い込まれそうになっている。

「ええ。それで合ってますよ。私も言葉が足りなかったですね。謝ります。」

後ろの方ではひそひそと話し声が聞こえる。

じゃあどういうこと?…と。

「詳しく説明しますね。更科総務も座って下さい。」

そう促され、更科総務は席につく。隣の男性社員からは「ナイスゥ!」と口パクで讃えられていた。

そこから始まった榊さんの話にはついていくのがやっとだった。
さっきまでの榊さんの話はいわゆる序章というやつで、まだ本題には入っていなかったのだ。

10時10分…そろそろ頻繁に電話のベルが鳴りだす時間だ。なのに今日はまだ一本も電話がない。電話までもが空気を読んでいた。
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