mirage of story
「カイムっ!」
「落ち着け!
今ここで行ったらアイツの思う通りだ!
大丈夫だ、カイムは生きてる!」
取り乱すシエラに、ライルは正確な判断をして彼女を制止した。
その制止の声にハッとするシエラ。
よく見て見ろというライルの声に心を落ち着かせて視線をぐったりするカイムに合わせると、息で微かに彼の紅い髪が揺れるのが見えた。
「さすがは先鋭部隊で隊長をしていただけの洞察力がある。
姫様はもう少し、そちらの方を磨いた方が宜しいようですな?
安心していい。
少し煩かったのでね、今は眠ってもらっているだけのこと」
ライルの見解は当たっていたようだった。
まだちゃんと息はある。生きている。
だけれど、居るのはいつどうなってもおかしくはないロアルという醜悪な男の腕の中。
「どうして.....どうしてカイムは、あんたなんかの所に......。
それも一人でなんて、無茶だってことくらい分かっていたはずなのに。
私を置いて皆を置いて、どうして.......」
シエラの頭の中に、カイムからの"さようなら"の文字が浮かぶ。
今も懐に忍ばせるカイムからシエラへの最期の言葉。
一人行ってしまうその理由も書かず、一方的に突き放すような形で手渡された言葉。
向かう場所も立ち向かう相手も抱く想いも決意も、同じはずだった。
なのに彼はどうして、一人で行くという道を選択したのか。
そもそも一人で行く意味などあるのか。
納得なんて、理解なんて出来るはずも無い。
一人で立ち向かうには無謀すぎるなんてこと、カイムなら勿論この戦いに向き合う誰もが分かっていたはずなのに。
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