mirage of story
もしあの者の中で自分の存在がまだ生きているというのならば、正直嬉しさを覚える。
まぁ例え記憶に残っていたとしても、あの者の中ではあまり良い記憶ではないと思うが。
だがしかし、もしも私のことを覚えていたのならば何故あの時―――目と目が重なり合ったあの瞬間、私の名を呼ばなかった?
私の名を呼び再会の思いに浸らなかった?
あの驚き動揺に揺れる瞳。
あれはもしかしたら、単に我々の存在に驚いていただけなのかもしれない。
私の存在を認識しての動揺では無かったのかもしれない。
仲間を助けに乗り込んできたあの者の姿。
誰かのために自分の身を危険に晒してまで敵の前に乗り込むなど、随分と立派になったものだ。
あの者は人間として生きている。
そして我々はそんな人間達に対立し生きる魔族。
敵同士。
私の存在を覚えていなくとも、あのような反応はおかしくはない。
――――。
ッ。
随分と久しぶりにそんな雑念に浸っていた。
人染みた感情と雑念。
こんな自分にもまだそんなものが残っていたのだと思うと笑いが零れた。
そんな雑念に揉まれ考えに浸るそのうち、無意識に歩む足を止めていたらしい。
部下である連れがこちらを怪訝そうに伺っていた。
(............あの者が私を覚えていようといまいと、今の私には関係のないことだ)
久方振りの人染みた感情がスッと退いていく。
彼の者との再会。
ロアルを浸食する闇にさえ未だ掻き消すことの出来ない遠い昔の思い出と記憶。
それはロアルを人へと引き戻させたが、それも本当に一瞬で彼の闇に覆われ再び奥へと引きずり込まれ隠された。
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