mirage of story
〜4〜










そこはとても綺麗な場所だった。
美しい場所だった。


ただ綺麗だというだけではない。
神秘的というか何というか、不思議な雰囲気を醸し出している。
まるで別の世界のよう。
そんな光景を目の前にしてカイムは息を飲み込む。 











「凄いな.....此処」



目を大きく見開いて、辺りを見回すカイムを見てシエラは穏やかな笑みを浮かべる。








「やっぱり......やっぱりこの場所は!
嬉しいわ、まだちゃんとこんなに綺麗に咲いているなんて」



「あぁ、凄く綺麗だな」



白い空間が二人を包み込む。

カイムは初めて見る美しさに感嘆の声を上げ、シエラはふぅっと一つ息を吐き出して懐かしさに顔を綻ばせる。





「此処、私来たことがあるの。
ずっと前。まだ母さんが生きていた頃に。
この花....好きだったんだ。私の母さんが」



「シエラの.....お母さんが?」





カイムはシエラを見た。







「そう。.....白くて小さくて。目立たないけど凄く綺麗。
私がね、ずっと前にこの森で迷っちゃった時に泣きながら歩き回って辿り着いたのが.....この場所だった」



シエラはスッと腰を下ろして咲き乱れる一つの花に手を触れた。








「私、この場所に来たらいつの間にか泣き止んでた。
母さんとはぐれて一人になってすっごく不安だったのに此処に来たら何か心が落ち着いちゃって。
凄く不思議な場所......あの頃も、今も」




確かにこの空間は落ち着く。

外の世界の暗い闇の穢れから切り離されたようで、この空間にずっと居たい。
初めてこの場所へと来たカイムにもそう思わせた。





 

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