mirage of story
「........。
あの時からずっと此処は私の中で思い出の場所なの。
大切な人との。母さんとの。
何だかとっても懐かしいわ。
凄く気持ちが落ち着くの。
これから長いながい旅へ出るっていうこの時に、これから何が起こるか凄く不安なこの時にこの場所に来られるなんて。
何だか夢のようだわ、凄く嬉しい」
花を指先で弄りながら笑う。
「.........俺もこの場所、凄く気持ちが安らぐ気がする。
これから先の不安とかそういう悪いものがみんな消えてく気がするよ。
すごく、凄く素敵な場所だね」
フッ。
カイムも彼女の隣に軽く腰を下ろし咲き乱れる花達を一緒に見つめた。
今の状況を考えればこんなことをしている場合では無いのかもしれないが、どうしてもしたくなった。
暫しの時、二人は時を忘れた。
(.....世界が全て此処みたいに、皆の心が安らぐ綺麗な場所であったらいいのに)
もしこの世界の全てがこの場所のように清らかなら。
辛さや哀しみを消し去れるような世界なら。
人は、皆幸せに生きて行けるのだろうな。
今の哀しみに埋もれる自分なんてなくて、ずっと笑っていられるのに。
そう思ってしまう。
そんな夢を....叶わないと分かっていても見てしまう。
(―――でも、所詮は無理なこと。
今の世界には哀しみとか憎しみとかそういう負の感情が多すぎる)
(せめて少しでも俺たちが魔族たちを倒すことで平和な世界に近付けばいいのに......)
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