mirage of story







シエラはその冷たいものがどんどん自分の瞳から溢れていることに、暫らく経ってから気が付く。

そのうちの一滴が頬を伝い口へと流れ、口の中にしょっぱい味が広がる。
それは、涙だった。







(私、どうして泣いてなんかいるの?)


自分の頬を濡らすものが涙だと分かり、シエラは手の平で煌めく小さな雫を凝視した。


涙を前に、疑問は深まる。

どうして涙なんか。

シエラは泣くのは嫌いだった。
人前で泣くのは、自分の弱さを相手に見せることになる。一人で泣くのは、過去の哀しいことを思い出してしまう。




それにあまり泣いてばかりいると、本当に哀しいことがあった時に泣けなくなると困るから。

.........あの時、涙は枯れることはないのだと知ったシエラだが、それでも自分の哀しみや喜びを代弁してくれる涙を無駄に使いたくないと思っていた。






どうしよう。
それでも留めどなく流れる涙に為す術もなくて、彼女は困り果ててしまった。

涙というものは、そうそう自分の意思で止められるものでもない。
ましてやその涙の理由が判らないのなら尚更である。




とりあえず、この自分の涙の理由を捜そう。
そう思い立ったが、シエラはどうして自分が泣いているのか全く分からなかった。


泣く理由。
そんなものは無かったはず。そう思い、記憶を探る。







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