mirage of story
――――ッ。
風が急にピタリと止んだ。
そうシエラが思うと同時に視界がひらける。
暗くてほとんど何も見えない。
だが、シエラにはここがどこだかすぐに分かった。
此処は、あの場所だ。
一瞬で、シエラの中にそんな直感が巡った。
「レイリスの花...畑?」
辺りはレイリスのほのかな甘い香り。
その香りが空気と調和する。
そうだ。
ここはエルザが大好きだったレイリスの花が咲く場所。あの一年前、事件の始まりとなった場所だった。
気が付けば雲に隠れていた月がまた、だんだんと辺りを照らし始める。
花の香りが満ちるこの場所を、月灯りは静かに照らしだしてゆく。
照らしだされていくその場所は、やはりシエラの記憶の中と一致した。
(ん?)
シエラは次第に明るくなっていく。
そして現れるレイリスが咲き乱れるこの場所。
そこにシエラは、自分以外の一つの人影を見つけた。
月灯りはその人影を照らし出す。
青みがかった黒い髪、澄んだ蒼い瞳の少年。
そんな影がそこには立っていた。
少年はシエラに気付いたのか、少年の瞳がその場に立ち尽くすシエラを捉える。
「誰だ?」
「あ....あなたこそ」
そしてお互いしばらくの沈黙。
「......俺はライルという」
先に口を開いたのは少年だった。
黙ったまま暫らくシエラを観察するように見て、それから口を開いた少年。
その少年に、シエラも口を開く。
「私の名はシエラ。
この近くの村の者よ」
「シエラ......」
蒼い瞳の少年ライルは、シエラの名を聞き何故か驚いた表情を見せる。
目を見開き、蒼く輝く瞳でシエラを凝視する。
その蒼い瞳とシエラの水色の瞳が、両者を隔てる空間の上で重なる。
「な、何か?」
少年の様子にシエラは戸惑った。