mirage of story
ライルは今までシエラを捉えていた視線を下へと逸らした。
「―――いや、なんでもない。
.....ところでお前、何でこんなとこに居る?
こんな時間に、こんな不気味な森に。女が一人で来るような場所じゃないだろう」
少年は顔を上げ再び瞳にシエラを捉えると、ハッとしたように話題を別の方向へと逸らす。
「私は何か歌みたいなもの聞こえて、気付いたらここに来ていた。
別に何の意味もなく来たわけじゃない。
あなたこそ、こんなとこで何してるのよ?
この辺じゃ、見かけない顔だと思うけど」
先程の視線の意味は気になったが、別に深い意味などないと思い相手の話題にシエラも乗る。
何故此処に居るのか。
確かにこんな時間にこんな森の中に居るのだから問われてもおかしくはないのだが、それはシエラからしてみても同じことだった。
しかもこの少年は、おそらく村の者ではない。
村の者でない者がこんな時間こんな場所に居る方がおかしい。何か事情があるのかとシエラは尋ねた。
「お前......あの歌聞いてたのか」
答えを考えているのか。
シエラはそう思って待っていたが、口を開き少年が言ったのは彼が此処に居る理由ではなかった。
驚いたように見開いて、蒼色がシエラを捉える。
蒼く澄んだその瞳。
何故だろう、その蒼色に心が落ち着くような感じに襲われた。
「聞かれてるとは思わなかった」
ライルはそう言うと、少し顔を赤くして笑った。
彼から零れた初めての笑顔。
子供のような、凄く綺麗な笑顔で少しだけドキッとする。
(........でもこの人の笑顔、何だか哀しい)
ドキッとする。
だがそれと同時に、そう感じた。