mirage of story








どれだけの研究や推察を重ねてみても、限界がある。


絶対に人の力では、事実には辿り着くことは出来ない。

だから人は本当の事実でないと分かっていながらも、偶像を崇拝するように形のないものを常にそれを信じ込もうとする。











"己の欲のため、世界が与えし富を独占しようとした。


木を切り水を汚し、他の生き物を殺めて生きる糧として、その命を長らえた。

大地を分断し境界線を引いては、人同士で争うようになり世界を欲に塗れた血で汚した。



故に、竜の怒りに我々は触れた。

我々はその愚かさのあまり、世界を崩壊へと誘(いざな)ったのだ"










新世界白書。

冒頭を飾るその文は、ひたすらに"人"というものの愚かさを誇張しているものだった。




この書物は歴代の魔族の国の長が、王位と共に引き継ぎ自らが治める時代の記録を綴ることとなっている。




そしてその慣習が始まったのは、今からもう随分と昔のこと。



竜達が世界を統治していた時代、そして起こった二度に渉る世界の崩壊の危機を経た。

それから竜達の指輪への封印が忘れ去られ、また再び竜と人が出会った。
その時の王が竜刻の指輪の一つ、水竜の指輪の契約者となったその時代の少し前。





埃を被った指輪を偶然に見付けて契約者となった王から、二代前。

この冒頭部分を――――つまりこの新世界白書なる書物を創ったその人物は、歴代の王の中でも、相当の変り者だったと云われる王だった。







 
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