mirage of story
この戦争は、いずれ世界を終わらせる危機となる。
あの子がこの戦火を生き延び、成長することが出来れば......その危機を、世界を救うことが出来る。
やはり、此処は彼等の加護を求めるしかない。
優しく猛々しく勇猛な、彼の竜達の加護を。
あの子のルシアスとしての記憶を封印し、別の少女としてこの戦火を逃れさせる。
ルシアスではなく、全く違うもう一人の人として。
竜の加護を受ける証として、二匹の竜の片割れであるあの美しき竜から名を貰おう―――シエラというその名を貰い、シエラとして世界が本当に終わってしまう危機のその前まで。
........あの子が強い、大人になるまで。
生きてもらうしかない。
私は願うことしか出来ないが、あの子が健やかに育ってくれることを。
最後にルシアス......何も君にしてあげる事が出来ない、こんな父をどうか許しておくれ"
ーーー
これに気が付いたのは、メリエルを経って何日か経った日のことだ。
この記述を見つけた時には、驚いたさ。
だってそうだろう?
世界に一冊しかないこの本の、それも書いた本人の意志で隠された記述の中に、俺の知ってる名前が二つもあるんだから。
ルシアス姫さんの名前。
そしてその名前と並列するように、嬢ちゃんの名前。
正直言うと嬢ちゃんを初めて見た時に、似ているとは微かに感じた。
その上に姫さんの指輪まで持ってるんだ、少しはまさかと疑ったさ。
だがなあの時の俺の中では、ルシアス姫は死んだっていう世間一般のそんな常識があったわけで。
その常識に浸食された俺は、そのまさかの可能性を頭で否定したのさ。
そんなはずはない、なんて。
「本当に......生きていたとはねぇ、姫さん」
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