あおいぽりばけつ
最低な出会いだったのだから、別れも最低で良かったじゃないか。そうすれば高木陸と言う男は最低な人間だった。で終わってしまえるんだから。
手の甲に涙を拭い付けながら駅に向かったは良いがこんな顔をして電車には乗れない。改札を抜ける事も、駅に入る事も出来ずにただ夕闇の公園でブランコに揺られていた。

「……立ちんぼごっこか?」

揺れるブランコを勝手に止めて、また旋毛に声を降らせたのは見なくても分かる。陸だ。
強がって、鼻を啜りながら私は言葉をころりと落とした。出来れば、聞き返して欲しい。聞き逃して欲しいと。

「そうじゃね。……一時間ホテル代別イチゴでええよ」

使ったことも無い、略語を使って心にバリアをする。だけど私の願いなど、簡単に破れてしまうのだ。私の言葉を聞いて、陸が控えめに声を上げて笑った。そして一言、私を突き落とす。

「やっすい女じゃのう」

泣いた顔など見られたくない。鎖を握った左手に目を擦り付けて、私は笑った。ありったけの嫌味を込めれたらと。

「けど私は、タダで股開く女じゃないけん、安くないよ」

見え透いた強がりに隠したのは気付かれたくない恋の芽生え。強がるなと言って欲しかった淡い期待。
でも現実は無情で、だからこそ誰も知らない秘密の道に転がり込んでしまうのかもしれない。

「ほんじゃあ一時間ホテル代別、イチゴでワレ買うちゃるわ。今日は抜きが足りんかったけぇ」

ひらり、膝に舞い降りた偉人の紙。払い除けて泣き顔を見せたなら、道はまた違ったのかもしれない。
散らばったそれをそっと掻き集めて胸が悲鳴をあげる。

「初回じゃけぇお試しでええよ。ホテル代だけ出してぇや」

立ち上がり手を引いたのは、今日は私。悲しいと顔を歪めて、それを必死で隠して。

そして煌びやかな街、ハリボテのお城へと飛び込んだ。

「やっぱりお前もワシも同じ最低って事じゃ」

「どうでもええじゃろ。早う抱いて」

陸との初めては呆気なく終わった。愛なんて無いのだから、ただ欲を吐き出すだけの行為に過ぎなかった。それなのに、じわりじわり、まるで心臓に包丁を突き刺されたように苦しくなる。

破られた小袋に吐き出した白濁は、呆気なくゴミ箱に投げ入れられた。まるで私の魂まで搾り取られて捨てられる気分だ。気が済んで、一人シャワールームに去っていった陸の背中を眺めて涙がまた、溢れた。

一時間二千四百円の恋心、それだけで良いと自分に言い聞かせたのだ。
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