社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 作業や帰り支度を再開する彼らの脇をすり抜けて、板倉さんが駆け寄ってきた。周囲をきょろきょろ見回すそぶりをしてから私に目を戻し、口に右手を当ててにやりと笑う。

「ふふー、私聞いちゃった」

 ちょいちょいと指を動かし私に屈むように促すと、彼女は私の耳に口を寄せた。

「あのふたり、これから新庄さんの両親に挨拶に行くみたいだよ」

「え……?」

「夕方、ふたりが裏で話してたの。新庄さんが社長に『いい加減に両親に会って』て言ってた」

 どくりと心臓がひときわ大きな音を立てた。

「両親に、挨拶……?」

 どくどくと胸の奥で鼓動がする。心臓の収縮に合わせて毒入りの血が全身を回るみたいに、手足がしびれていく。

「あのふたり、別れるどころか結婚秒読みかも」

< 330 / 383 >

この作品をシェア

pagetop