君が夢から覚めるまで
家庭教師の生徒と必要以上の接触は禁止されていた。
ただ出掛けるだけなら問題無かったかもしれない…。
だが、抱き合っている所を誰かに見られていたらしい。
いけない事だと分かっていたけど、拒みきれなかったのは自分の甘さだ。
怜が喜んでくれるなら…頑張ってくれるなら…そんな軽い気持ちだった。
怜に告白された時に、家庭教師のバイトも潮時だと思った。
ただ、最後まで彼を見てあげれなかった事に悔いが残る。
頑張れ‼︎…そう言って背中を押してあげたかった…。
結局、バイトを辞めることは怜には言えなかった。
勝手に何も言わずに辞めてしまった事をどう思っただろうか…呆れてる?
それとも怒ってる?
今日は合格発表の日だ。
朝からソワソワが止まらない。
「…ちゃん…香帆ちゃん!」
翔也に呼ばれてハッと我に帰る。
そうだ、カフェのバイト中だった。
「どうした、今日?ずっと心ここにあらずって感じだけど?」
「今日、合格発表の日なんです…」
「ああ、あのカテキョの子?そっか…香帆ちゃんも頑張ってたもんな。後で連絡してみる?」
「ううん…そんな資格ない…」
またどよんと気分が重くなる。
「裏、片付けて来ます…」
とてもホールへ出れる気分じゃなかった。
溜息ばかりが増えていく。
「香帆ちゃん、お客さん来てるよ」
また翔也が呼びに来る。
「17番の席。あのマフラー、彼にあげたんだね」
指差す方を見ると、クリスマスにプレゼントしたマフラーをつけた怜の後ろ姿が…。
「合否の報告じゃない?もう、今日は上がっていいよ」
あの家庭教師最後の日以降会ってない。
恐る恐る怜に近付く。
「怜…君…?」
「あ、香帆ちゃん…久しぶり…」
怜は疲れた顔をして笑って見せた。
「どう…だっ…た…?」
「あ…うん…」
怜は言葉を濁した。
香帆は体が震えだした。
「待ってて、私、もう上がるから」
香帆は急いで着替え、怜を店から連れ出した。
暫く並んで歩くが、怜は何も話そうとしない。
駄目だったんだろうか…自分が最後まで見なかったから…勝手に辞めちゃったから…。
ジワジワと目頭が熱くなってくる。
ここで自分が泣くのは卑怯だ…泣きたいのは怜なのに…。
気付くと、クリスマスに怜に告白されたイルミネーションの公園まで来ていた。
「香帆ちゃん…」
漸く怜が口を開く。
「ごめんね、俺…」
ごめん、と言われて涙が溜まる。
何て言葉を掛ければ良い…?
「受かっちゃった…」
「…え…?」
フフッと怜が笑う。
「だーかーらー合格したの!」
「え?え?」
状況が飲み込めなくって上手く反応ができない。
はははっと怜は元気よく笑った。
「だって、ごめんなんて言うし、変な顔してたから私、てっきり…」
「変な顔って失礼だな〜驚かせようとして悪かったよ」
「も〜‼︎」
香帆は怜の胸を叩いた。
涙が溢れる。
「だからごめんって言ったじゃん」
香帆の手首を怜は掴み、顔を覗き込む。
「香帆ちゃんが俺にしてくれた事、無駄にするわけないじゃん…それに…合格したら付き合ってって言ったよね?」
香帆はコクンと頷く。
ポロッと溢れた涙を怜が親指でそっと拭う。
「香帆ちゃんが好きだよ…だから俺と付き合って」
香帆はもう一度、頷く。
怜の顔がパアッと明るくなり、溢れた涙を拾うように、頬にキスをした。
「怜君…!」
「ごめん、嬉しくって」
怜は香帆を抱き締めた。
「ありがとう、香帆ちゃん…俺、もっと頑張るから…だから少しずつ、ゆっくりでもいいから俺の事好きになって…」
香帆は何度も何度も怜の腕の中で頷いた。
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