君が夢から覚めるまで
花火大会が終了しても、怜は香帆の手を離そうとはしなかった。
今もどこかで彼女が見てるかもしれない…。
香帆はついキョロキョロしてしまった。
「ねえ、怜君。あの、キャッ!」
ドンッと人に押された。
少しよろけた香帆を怜は自分の胸へと引き寄せた。
香帆はそこへ飛び込むような形になり、怜の繋いでない方の手が背中に回り抱き締められたようだった。
怜は体をくるっと反転させ、人混みから外れた。
「よそ見してたら危ないよ。大丈夫だった?」
「あ、うん。ごめんね、平気」
「良かった…」
怜が耳元で囁く。
僅かに息が耳にかかりゾクゾクする。
「…香帆ちゃん…」
怜の心臓がドクドク言ってるのが聞こえる。
「怜…君…?」
怜は香帆の肩に顔を埋めたまま、背中に回した腕を緩めようとはしない。
ーーー何…これ…⁉︎
怜につられて香帆の心臓もドキドキ言い出した。
ふと、怜の彼女に睨みつけられた目を思い出す。
身震いする。
「怜君?」
もう一度呼びかけるが、怜は反応しない。
彼女が見てる…。
視線を感じた気がした。
「怜君!」
怜の胸を手で押し、離れようとする。
フッと怜が笑った。
「小さいな〜香帆ちゃん、小さい。もうちょっとふっくらしてた方が抱き心地いいんだけどな〜」
怜が背中を確認するかのように触れる。
香帆は顔が赤くなった。
「い、いいもん。それでも良いって言ってくれる人、いるんだから」
「え?…彼氏…いるの?」
「いつか、きっと…そのうち…多分…」
「最後の方、声ちっちゃくなってんじゃん」
怜は声をあげて笑った。
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