年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
私はそんな彼を見つめたまま呆然とし、目を向け直した輝は、フ…と口元に笑みをこぼした。


「呆れるだろ。あんなデカい会社の社長なのに、外に女を作って遊んでばかりいる野郎なんだ。
あいつは俺の母親を騙して妊娠させた。母は愚かで、そんな男の言うことを信じて俺を生み、未だに離れられないでいるんだ。俺にもいつかはいい事があると言い続けて、それで都築商事への入社も勧めてきた。……俺は、母の顔を立てるつもりで入社はした。だが、あの男の言うなりになるのが嫌で、半ば喧嘩腰で仕事を辞め、北芝電機に転職したんだ。
幸いにも北芝では前の仕事ぶりが高く評価されて今の職には就いたけど、最近それを阻害しようとあいつが動き始めてて……」


話していた輝の唇が閉まる。
それを見つめながら彼の父親が言っていた言葉を思い出し、自分もきゅっと唇を結んだ。


輝は小さな息を吐くと紙コップを手放す。
それから自分の膝に手を下ろし、力なく声を発した。


「……熱海で会った女性のことだけど……」


ビクッとして彼を見直す。
輝は私に視線を戻すと目線を少し下げ、唇を引き締めて話しだした。


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