年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「あれは前の仕事で世話になった取引先の社長の娘で、年末にあいつが俺を騙して会わせた見合いの相手だったんだ。…俺は、あいつとの会食だと母に聞かされてその場所へ向かった。だが、そこに居たのは彼女とその両親で……」


輝は表情を歪ませる。
その時のことが頭に浮かんだみたいで、私はそんな彼を見つめたまま、あの人が言っていたのは本当のことだったんだ…と実感した。


(輝には、決められた婚約者がいたんだ…)


そう思うと指先が震えてくる。
現実を受け止めなければならないと思うのに、そうしたくない自分を感じる。


「あいつは自分の仕事の利益になることなら何でもやるような奴なんだ。それが例えば外の女の子供でも、使えると思うと平気で扱うような野郎で……」


苦々しい口調で続ける輝は、私の方に目線を向けた。


「…でも、俺はあんな奴の言うなりにはならない。自分にも意思があることを伝えて、思い通りにはさせないと訴えるつもりでいる」


強い眼力で語りかけてくる輝。
その瞳には間違いなく嘘はないと思える。
だけど__

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