年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
そう言うとタクシーを止めてくれようとする。
私はまだ彼にプレゼントを渡していなかったのを思い出し、その背中に向けて「輝」と呼んだ。



「…これ、プレゼント」


欲しがっていたブランドのキーケース。
しがない事務職の私には、この程度の物しか買ってやれない。


「えっ!?まさか買ってくれたのか!?」


ブランドの包み紙を見つめて驚く輝。
結構値段高いのに…と言いながらも、ぎゅっと箱を握った。


「ありがとう。大事にするよ」


もう一度彼が擦り寄って来て、ぎゅっと体を抱き締める。
以前ならこのままホテルの部屋へ直行だったな…と思い出しながら、トントンと彼の胸板を叩いた。


「明日も早いから」


それでも一緒に居て欲しいと心の中では思っている。
でも、この頃の輝は、私と過ごす夜の回数を極力減らそうとしている。


「そうだったな。残念。仕事がなければ」


悔しそうにしながらも背中を向ける。
そこに運良く空車タクシーが通りがかり、私はドアを開けられて体を中に滑り込ませた。


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