年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
「明日は朝一番の便で出発するよ。帰ってきたらまた連絡入れるから」

「気を付けてね」

「望美も風邪に気を付けろよ」


それじゃ…と別れのキスもせずにドアを閉められる。
私の乗ったタクシーを見送りながら、彼がポケットに手を突っ込む姿を、この最近本当によく目にする。


それだけ私達は別々に帰るようになったってことだ。
もうアツアツの頃の二人じゃなくなったってこと__。



バッグミラー越しに見える姿に溜息を吐く。
こうして輝とお正月を過ごせるのも、今年がもしかすると最後になるのかもしれない。


(…そう思いたくはないけど)


だって、私はまだ彼が好きだから。
彼に求められれば、いつだって準備万端整えてるから。


(輝は……どうなんだろう…)


今でも私のことを好きで居てくれてるのかな。
このマンネリ化されたチケットと同じ様に、彼の気持ちも段階的に下がっているんじゃないの?


「熱海か…」


別に温泉だからいいじゃない、と思う。
国内なら飲み水にも気を付けなくていいし、第一頭を切り替えて、英語を使わなくていいから助かる。


(でも…ね)


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